クラシックレンズのボケの王様、ヘリアー(Heliar)光学系を採用した中判カメラ用交換レンズPENTAX 67 135mm F4 Macro: 隠れクラシックレンズ

現在はリコーが保有しているペンタックス(Pentax)ブランドのカメラ部門では、中判カメラとしてペンタックス67というものがあり、超大型の一眼レフであったことから「バケペン」とか呼ばれたりしていました

そのバケペン用の交換レンズだったのが、PENTAX67 135mm F4 Macro、初期型と後期型があり、初期型は、ピントリングの形状が異なり、タクマーブランドが付いていました。

マクロ撮影用の接写レンズとして販売されていましたが、75センチまでしか寄れず、撮影倍率も、 0.31×と、撮影倍率を等倍にするためには、93mmほどベローズか、接写リングをかませる必要があり、そうすると、F8にまで明るさが落ちるため、一眼レフの光学ファインダーではピント合わせが事実上不可能となり、イマイチで、ペンタックス67交換レンズの中では、あまり人気がないレンズという扱いになっています。

当時(1970年)のフィルムカメラ用マクロレンズ(マイクロレンズ)は、文献複写などに利用されることもあり、開放絞りから中心部から周辺にかけて、一般レンズより高い解像力を示すものが好ましいとされていましたが、このペンタックスの67用135mmマクロは、開放絞りだと、中心はそこそこ、周辺はあまり褒められた性能ではなく、真価を発揮するのは、F8~F11に絞ったときなど、開放絞りでも隅までシャープな文書複写目的のレンズというよりは、周辺はむしろ崩れたり流れたりするほうが好ましいこともある、一般のポートレートなどの撮影に向いた性能になっています。

ただ、このレンズは、マクロレンズではなく、ポートレートレンズとして優れた特性があり、ペンタックスの売り方が間違っていた可能性があります。(ペンタックスは、より小型の35ミリフルサイズ用のマクロレンズ100mm F4(1995年に生産終了)でも、同じくヘリアー光学系で出しているので、当時のペンタックスにはヘリアー光学系をマクロレンズで使うことに意義を感じていたのが設計人にいた?ヘリアー光学系はシンプルで製造費用が安くつくというのもあったのか?)面白いことに、この時期(1970年代)、キヤノンとニコンも、テッサーやクセノター型の光学系が盛んな中、ヘリアー光学系の100mm, 105mmの F4マクロレンズを出しています。ヘリアー系でやってみようかくらいの話だったのか?どちらにせよ、日本のカメラメーカーの光学系は、まだドイツの特許切れの光学系基本設計に若干手を加えて出すくらいの段階だった時代です。

smc PENTAX67 マクロ135mmF4

http://www.ricoh-imaging.co.jp/japan/products/filmcamera/lens/index672_macro.html

バケペン=ペンタックス67用交換レンズとしても、人気の無さから、生産終了後は一貫として中古では価格が暴落してるので、マントアダプター遊びなど、お遊びには良いかもしれません。

最短撮影距離75cm

最短撮影距離 0.3x 1:0.33

645g

また、このペンタックスのPENTAX67 135mm F4 Macroは、中身はクラシックレンズの設計なので、マクロレンズ以外に使うとハマるレンズです。

レンズ構成は、現在日本のコシナが必死になって宣伝してる、100年以上前に開発されたヘリアー(Heliar)型の光学系で、1900年に開発されたレンズ設計をそのままパク(ペンタが製品化した時代(1971年)には、特許は切れてるので利用は自由で「パクってはいない」のだが)った代物です。ま、ある意味ではクラッシックレンズの復刻版なわけです。

ヘリアー型光学系は、光学レンズが非常に高額であり、加工技術も高く付き、さらにレンズのコーティング技術が未熟だった時代には、できるだけ空気に触れるガラスの面を減らすため、一番原始的とされる三枚構成のトリプレット光学系の、一番前と後ろのレンズを2枚張り合わせにして、三群5枚のレンズ構成とした設計でした。フレアーや色純度的には、6枚のレンズが独立して構成されるプラナー(Planer ガウス Gauss )より有利でした。

また、ヘリアー(Heliar)型は、同じくトリプレット型を改良したテッサー(Tessar)系統タイプに比べ、ピントがあった部分からのボケ方が非常に上品とされ、Heliar-style bokehとして、手に入れたカメラマンはこのレンズを使っているのを隠していたとまで言われるほど、重宝された時代もありました。**大判カメラ用の250mmだか、300mm?は。ヘリアー光学系で、肖像写真でよく使われたという。

Heliarは、若干の改良型として、真ん中のレンズの位置をやや前の方に持ってくる、Dynar光学系と呼ばれる派生型がでましたが、後にフォクトレンダー社は、Dynar光学系もHeliar光学系と呼ぶことにして、Dynar光学系も、まとめてHeliarと呼ばれるようになりました。

現在は、日本のコシナが、ヘリアー(Heliar)光学系に、設計当時は使えなかった新型光学ガラスや、非球面レンズを組み合わせて、最新のレンズとして続々発売していることからわかるように100年前の基礎設計が今でも十分通用しているのが、ヘリアー(Heliar)光学系のすごいところです。

というわけで、当時のペンタックスが、古いヘリアー(Heliar)光学系をそのまま採用してこのレンズを作ったのは、レンズ構成が単純で、生産コストが低い、その割に高性能、さらにヘリアー独特の性能と描写を取り入れたかったからでしょう。PENTAX67 135mm F4 Macroに採用されたのは、最初期のヘリアーHeliar光学系ではなく、改良型のDynar(後にこれもHeliar光学系と呼ばれるようになる)に近い設計で作られました。

ペンタックス67用マクロ135mmも、ヘリアータイプのレンズ構成なので、似たような描写をする、なんちゃってクラッシックレンズとしての楽しみもあります。

F4と暗めのレンズですが、中判バケペン用のレンズですから、フルサイズや、APS-Cで使うと、口径食の少ない素晴らしいボケを醸し出します。**ボケの評価は主観の部分も多いので、好みであったり、テーマごとに好ましいボケそのものも異なったりするので評価は難しい。そして、最近はズームレンズでもそこそこのボケのきれいなレンズが増えているので、小さく見る分には「なんか違いあるの?」くらいにしかわからない場合があります。また、同時期に、ニコンが出した35mm用の105mm F4 は、ヘリアー光学系にも関わらず、近距離のボケは美しいとされるが、遠距離でのボケ質の評判は良くない。

*ピントの合っているところからのボケ方が非常になだらかにボケるため、光学ファインダーでのMFピント合わせだと、ピントの芯が見にくい場合があります。

*最短撮影距離での露出倍数変化は、2/3段暗くなる

Lens #2: Pentax 67 135mm F4 Macro
Sasha Krasnov.
https://skrasnov.com/pentax-67/135mm-f4-macro/

A Short History of the Heliar Lenses https://www.antiquecameras.net/heliarlenses.html

「Voigtlander Heliar 40mm F2.8」フォトヨドバシ
http://photo.yodobashi.com/sony/lens/heliar40_f28/

100年以上前の光学設計ほぼそのまま、1971発売開始のレンズですが、ヘリアー光学系独特のボケ方があり、中古で今や捨て値で売られているには惜しい。

PENTAX67 135mm F4 Macro マウントアダプターでニコンD600で撮影

モデル 冴えない彼女の育てかた 澤村・スペンサー・英梨々 1/4スケール

ヘリアー(Heliar)光学設計レンズのよもやま話

フォクトレンダー社は、更にヘリアーHeliar光学系の改良を続け、写真用レンズでは今でも珍しい(重くなるので快適なAF駆動をさせるために、軽くする必要から、現在も多くの写真用交換レンズはなんちゃってアポクロマート光学止まりのことが多い),純粋なアポクロマート設計APO-Lantharと呼ばれる改良型を出しました。APO-Lantharも、ヘリアー(Heliar)光学系の改良型でしたが、フォクトレンダーはレンズ構成が大幅に変更になったことからAPO-Lantharをヘリアー光学系とは別の光学系として扱っていました。

その後、フォクトレンダーのブランドを手に入れた日本のコシナは、フォクトレンダー社の方針を引き継いで、基本は、ヘリアー光学系を利用し、追加の光学系を足したり、設計当時は使えなかったガラスを採用させヘリアー光学系に改良を重ね、フォクトレンダーブランドのレンズを多数開発製造販売を続けています。

コシナの40mm 2.8は最新設計でありながら、光学デザインは、100年前に開発されたヘリアー(Heliar)ままの

HELIAR (ヘリアー)40mm F2.8 コシナVMマウント

http://www.cosina.co.jp/seihin/voigtlander/accessory/adapter/40mm-f2_8/index.html

↑のレンズは、構成はヘリアー型ですが、現代の要求に答えようと描写安定のため非球面レンズが入ったせいか、やや後ボケがざわつくこともあるようですね。

ただ、HELIAR-HYPER WIDE 10mm F5.6 ASPHERICALになると、もうどこがヘリアー(Heliar)やアポランター光学系ですかというほど、もとの光学設計から改変され複雑化してるので、これはもうヘリアーやアポランターの名前をブランドに使ってるだけですね

http://www.cosina.co.jp/seihin/voigtlander/e-mount/e-10mm/index.html

[APO-LANTHAR(アポランター) について] コシナ

http://www.cosina.co.jp/seihin/voigtlander/e-mount/e-110mm/index.html

おまけ

中判一眼レフ用PENTAX67レンズの解像測定結果などのまとめ(当初開発レンズの光学系がそのまま生産終了まで使われたレンズもあれば、55mm, 75mmのように何回かリニューアルされたものもある)

Pentax 6×7 Lens Information Guide

https://antiquecameras.net/pentax6x7lenses.html

SMC Pentax 67 Macro 135mm f/4は、1971年の最初の発売時から、光学系は全く変更されず、67システム終了まで生産された。

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